お知らせ

2022/07/18

第17回山頭火俳句コンテスト 入選作品紹介

川棚を愛した俳人・種田山頭火にちなんで開催している「山頭火俳句コンテスト」。
沢山のご応募の中から、特に優秀な作品をご紹介します。

※句評は倉本昭氏による(梅光学院大学教授)


★最優秀賞★
福本 波津子さん 下関市
雪舟の吐息の沈む池の春  

<句評>
川棚妙青寺は雪舟庭の春気色を詠みこんでいます。池とは、本堂前心字池のこと。一句は春の穏やかさ、花爛漫たる陽気の景をとらえたのではないところに作為の妙があります。「雪舟の吐息」という措辞から、画人の精神の屈曲からくる陰影を、作者は感じたのだと思います。唐土で二年近く水墨画修行した間には、たえず孤独感と焦慮が襲ったでしょうし、帰国しては、各地を転々として画業にいそしむ中で、戦乱による不安と無常観から逃れられなかったはずです。そうした心の遍歴が、雪舟芸術に何ともいえぬ深い陰影をもたらします。いわゆるわび・さびです。ただし、雪舟のわびさびは微温的な風流とは無縁、凄愴で森厳としています。本句の作者は、雪舟庭の池の、冷えさびた雰囲気に、奥深い陰影を感じました。そこには、作庭したという雪舟の心の陰影が宿っているのではないか。それを「吐息が沈む」と表現したのでしょう(ため息としない点に注意すべきでしょう)。
しかし、池には春の息吹がめざめています。生命のざわめきが高まる季が、もうすぐそこです。下五が一句を重苦しくすることから救っています。
本句をくりかえし鑑賞するに足るのは、あはれやわびしさの中に、かすかな光明が宿ることでもたらされる、複雑な味わいがあるからです。しかも、吐息が沈むという表現に、作者の瑞々しい詩精神があらわれています。


☆優秀賞☆
西嶋 寿賀子さん 下関市
寒椿つらつらたつき八十路坂

<句評> 
寒椿で冬の句。たつきは、「つらつら」という語が前にあるので、「立つ木」ととれます。古来、群生する椿が花開く様を「つらつら椿」と呼びます。『万葉集』巻一に「巨瀬山のつらつら椿つらつらに見つつ思はな巨勢の春野を」とあるのが由来です。作者は、川棚三恵寺参道に植わった椿にはげまされながら、徒歩(かち)でお参りに行くのでしょう。それにしても、本堂まで随分遠く感じるものだ、もう八十代なのだから……という感慨を詠んでいるようです。それでも、毎年椿に迎えてもらってお参りできれば、生きる喜び、健康への感謝をも感じるはずです。一句、軽い自嘲のユーモア、低徊趣味的なものがあり、深刻さがないのは、そのせいです。「つ」の音韻の連続が、一句全体の快活なリズムを支えているのも、無視できません。作者はこれからもお元気に椿の参道を歩まれることでしょう。


武石 道代さん 下関市
一と葉一と葉再生の楠風光る

<句評> 
風光るで春の句。川棚にある天然記念物の千年楠も、枯死の危機がさけばれてから、年数が経ちます。再生術も施され、何とか最悪の事態をまぬかれて、少しずつ持ち直しているようです。作者が表現するように、一と葉一と葉のよみがえりが、時を重ね、巨楠の未来・川棚の未来へとつながっていきます。季語は、春の陽気を含んだ風が、輝くばかりに麗しいということをあらわします。春風にそよぎ、緑なす楠葉の茂みのあわいから、春光が漏れるさまが見えてきます。コロナ禍に振り回された川棚が再び繁盛することへの祈りも、底にこめられているのではないでしょうか。


松本 侑大さん 夢が丘中学校2年
湧き上がる太古の恵み青龍泉 

<句評>
無季の句。当コンテストは、山頭火が愛した湯町にゆかりのものですから、温泉を詠んだ投句は当然ながら多数を誇ります。しかし、この句のように、太古からの歴史を詠んだものは皆無でした。伝説によれば、怡雲和尚(いうんおしょう)が温泉開鑿(かいさく)に一役買いました。この僧は足利義満肖像画に讃を寄せたことがあり、応永年間に湯を掘りましたから、室町時代のお話ですね。しかし、非火山性温泉である川棚の湯は、雨や雪が地下深層にまで浸透し、地下増温率の原理で温められたものです。そのシステム自体は太古から育まれたものですから、本句の「太古の恵み」というのに、うなずけるわけです。実際、萩でも、二万年前からたまった地下深層水由来の温泉が喧伝されていますね。大きな視野をもってとらえなおした川棚の湯は、いつもと違ったぬくもりをもたらしてくれるはずです。


にし たまゆ さん 川棚小学校2年
ほわほわさくらひんやりかえるの手 

<句評>
さくらで春の句。花の頃のカエルはツチガエル、ヌマガエルでしょう。枝にある花を手のひらで受ければ、かすかにひんやりとしますが、かろやかで、色は、すき通るようなピンクですから、むしろ、あたたかいと感じる人もいるでしょう。しかし、カエルはしめりけを帯びて、ベタっと冷たいものです。作者がすごいのは、そのカエルの、手の感触を詠んでいることです。吸盤が肌に吸い付くと冷たくて、こそばゆい感じ。桜の花とは全然違います。そのギャップに驚き、感動しているのです。でも、両方とも春のおとずれに躍動(やくどう)する生命(せいめい)のあかしです。この句は大地がはぐくむ生命への讃歌(さんか)なのです。これほどまでに繊細(せんさい)な感覚をよみおおせたのは脱帽(だつぼう)のほかありません。


山村 こうた さん 川棚小学校2年
ねがいごとクスにあつまれ葉とえがお

<句評> 
楠は楠落ち葉なら夏の季語ですが、ここは無季の句ととれます。千年楠を枯死の危機から救おうと、町の人々はじめ、様々な方面から救いの手が差し伸べられました。再生への願いが楠にこめられます。これまで人々の多幸を願った自然の守り神が、いまは恩恵を受けた人々から守られ、祈りを寄せられています。それに応えたのか、青緑の葉のそよぎが快活で、ほほ笑んでいるように見える、というのが一句の意味です。子どもらしい、まっすぐな感性で詠まれています。


★特別賞★
五嶋 篤子さん 下関市
まよいこむかぜ・やま・うみにまねかれて

吉山 行雄さん 下関市
ひらひらとアサギマダラもさんとうか

田中 美々さん 夢が丘中学校2年
風吹くみどりのじゅうたん駆けまわり

金子 智哉さん 夢が丘中学校3年
黒い海花火が照らすは枯れた僕

松本 旭日さん 夢が丘中学校3年
ももいろの花がスタート知らせてる


☆佳作☆
河野 通雄さん 下関市
鍵盤で碧眼偲ぶ島は初夏(孤留島を望んで)

武久 茂さん 下関市
花冷えに馬酔木(あしび)房下げ春陽待ち

貴島 素子さん 下関市
石畑の別れの道の落椿

池田 敦子さん 下関市
太師講お接待する人受ける人

海原 朱里さん 夢が丘中学校2年
行列が緑のそばを食べにくる

中村 夢奈さん 夢が丘中学校3年
海と山囲まれ涼む川棚民

かわ田 りおさん 川棚小学校2年
くすのもりわたしのパワーをうけとって。

武田 香月さん 川棚小学校2年
田んぼみちかぜにおされてはやあるき

山村 拓実さん 川棚小学校6年
楠の葉と皆の笑顔増えていく

中村 ももかさん 誠意小学校2年
はるちかしなわとび大かいがんばるぞ