山海の幸、人の幸、美食家垂涎の味に酔う。
偉人が見染めた名湯に、身も心もときはなつ。
温かなもてなし、旅情あふれる湯の里の宿。
旅の想い出に彩りを添える、郷土の逸品。
目にも、体にも、心にも、感動サプライズ。
歴史と風土が織り成す、感激のひととき。
思いは深く、この地を愛する情熱人たち。
後世に語り継ぐ、豊浦ゆかりの偉人列伝。
黄孫窯:森野清和/Kiyokazu Morino
樹齢100年を超える公孫樹*の巨木が目を引くアトリエ。蹴りろくろを用いて器やオブジェづくりに情熱を注ぐひとりのアーティストがいる。陶芸家・森野清和さん。自然の素材を生かしきることにこだわるこの陶芸家は、豊浦町の風土こそが自分の創作の原点であると語ってくれた。土と対話をしながら、土に新しい生命を注ぎ込む。独特の作風から高い評価を受ける、このアーティストの横顔に迫りました。
(*公孫樹:銀杏[イチョウ]の別称)
「素材が生きているからこそ、出来上がったモノも生きてくるんです」。物静かにそう語ってくれた森野さん。大学のクラフトデザイン学科で陶芸を学ぶも、大量生産を前提とした産業陶器の現実に違和感を憶えて、民芸の世界へ飛び込みました。
「自分が産業陶器を受け入れられなかったのは、素材を全部殺しているように感じたから。素材の持ち味を消し去って、人間の都合のいい方向へ、素材も、製造過程も、すべて持って行ってしまっているように思えたからです」。そう感じた森野さんは、大学卒業後に沖縄に移り、現地の伝統民芸である壺屋焼の修業を積みました。自ら土を掘り、蹴りろくろでゆっくりと形づくり、窯で焼き上げていく。産業陶器の対極にある『手で造る仕事』に魅せられた森野さんは三年間の修業の後、一年を経て故郷である豊浦町に、「黄孫窯」を開窯しました。以来、自らの手で土を掘り、こね、ろくろを回し、焼き上げる。すべての工程において沖縄で身に付けた創作スタイルを貫いています。
「大切なことは、素材と人が喧嘩をしないこと。素材である土に、人間が合わせていく、それは土と人の対話のようでもありますね」。創作に対する信条をそう話してくれた森野さん。素材の土は、豊浦町内はもちろん隣町の豊北町など、山口県内のものがほとんど。その手から生み出される作品は、飯椀や湯呑などの日用使いの器から、オブジェまで多種多様。いずれも見た目からも、手触りからも、自然の素材ならではの親密で温かな力を感じ取ることができます。
グァテマラ、メキシコ、エルサルバドルなどの中南米を巡ったときに、合理性優先で世界のデザインが均一化しつつあると実感した森野さん。「自分の中のとんがった部分でしょうけど、人が使って単純に“便利”と感じられるモノではなく、観ているだけで心地よいと思えるモノ。人に感動や発見を与えられるモノをつくりたいと考えています」。そんな森野さんの思いを強烈に反映したのがオブジェ作品。一切の規制に縛られないそれは、観る者、使う者によってその在り様が変わる「ひとつのモノ」として、鮮明な存在感を放っています。さらに、森野さんは陶芸のみにとどまらず、彫刻や木工の分野にも創作力を傾けています。例えば、森野さんが手掛けた一木造りのベンチは、天然木の反りやゆがみなどをそのまま生かしたもの。「木を切り刻んで、その木の個性を消し去りたくはない」。その言葉には「素材と人が喧嘩をしない」という森野さんの哲学がはっきりと脈打っています。
「これだけ、住みやすいところは多分ないと思います。水も山も自然もいっぱいあって、気候が暦の通りに巡ってくる。とりわけ海に至っては、私は沖縄の海よりも水の透明度が高く、綺麗だと感じています。」森野さんは生まれも育ちも豊浦町。創作活動のベースとしてはもちろん、自らの自然な生活スタイルを実践するうえで、豊浦町は申し分のない環境であるようです。アトリエで創作に励みながらも、25年にわたる陶芸教室をいまも続けるなど、地域との絆づくりにも余念がありません。「私は根っからの豊浦の人間、曾祖父は川棚に永住を望んだ種田山頭火のために、身元保証人になったひとりでした」と言うエピソードも聞かせてくれた森野さん。
今日も公孫樹のもと、自然の素材に新しい生命を吹き込んでいます。
1949年 | 山口県下関市豊浦町に生まれる |
1972年 | 九州産業大学芸術学部クラフトデザイン科卒 |
1973年 | 沖縄壺屋焼 島袋常恵・常秀両氏に師事 |
1977年 | 豊浦町川棚に「黄孫窯」開窯 |
1982年 | 佐賀県窯業試験場研修(素地・釉薬・染付) |
1983年 | 中南米グァテマラ・メキシコ窯業調査 |
1989年 | 萩焼十二代 三輪休雪氏に師事 |
1994年 | 東京・銀座「ギャラリーKG」個展 |
1995年 | 宇部現代日本彫刻展 マケット入選 汎瀬戸内現代美術展 招待 |
1996年 | 佐賀県炎博覧会「日韓野外陶器展」出展 朝日クラフト 招待 |
1999年 | 下関市立美術館「もの・記憶展」個展 (土・木・オブジェ) |
2000年 | 益子陶芸展「審査員特別賞」 |
2004年 | 萩陶芸家協会 入会 萩陶芸家協会展「協会賞」 鹿島彫刻コンクール マケット入選 |
2006年 | 豊浦町宇賀 清和工房開窯 2010年 現在形の陶芸 萩大賞展「審査員特別賞」 |
黄孫窯 | 〒759-6301 山口県下関市豊浦町川棚3930 |
---|---|
TEL/FAX 083-774-2468 |
商品内容・価格・営業時間等が変更となる場合がございます。
詳しくは各施設へお問合わせください。